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2009年5月26日火曜日

「政務調査費 意見書(文書提出命令)2」

「政務調査費 意見書(文書提出命令)2」

平成19年(行ウ)第20号 政務調査費違法支出損害賠償命令請求事件
  原 告  阪口保外55名
  被 告  奈良県知事

意見書

2009(平成21)年5月  日

奈良地方裁判所民事部合議係 御中

原告ら訴訟代理人弁護士 相  良  博  美   

同       弁護士 石  川  量  堂   

同復代理人   弁護士 無 漏 田  恭  生   

 原告らがなした文書提出命令申立について,被告から平成21年4月7日付意見書が提出されているが,これに対する原告らの反論は,以下のとおりである。
第1 文書提出の必要性について
 被告の上記意見書の要点の一つは,「原告は制度の欠陥を違法理由としているのであるから,議員や会派の個々の支出について証拠調べをする必要はない。したがって,文書提出命令も必要がない」というものであるが,以下のとおり反論する。
1 最近の裁判例に見る、政務調査費の支出の違法性の判断基準について
 (1) 名古屋高裁平成21年2月26日判決
三重県桑名市議会における特定会派の政務調査費の一部支出を違法とした名古屋高裁平成21年2月26日判決(平成20年(行コ)第32号)は,政務調査費の支出の適法性の判断基準について下記のように判示する(なお,引用判決文中,被控訴人とは桑名市長である。)。本判決の原審判決は,津地裁平成20年5月19日判決である。

「ア 法100条13項は『普通地方公共団体は、条例の定めるところにより,その議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部としてその議会における会派又は議員に対し,政務調査費を交付することができる。この場合において,当該政務調査費の交付の対象,額及び交付の方法は,条例で定めなければならない』と定め,これを受けて,桑名市において定められた本件条例(原判決2頁16行目参照)は,2条において政務調査費の交付先を会派に限ることともに,5条において『会派は,政務調査費を別に定める使途基準に従って使用するものとし,市政に関する調査研究に資するため必要な経費以外のものに充ててはならない』と定め,8条において『政務調査費の交付を受けた会派は,その年度において交付を受けた政務調査費の総額から当該会派がその年度において市政の調査研究に資するために必要な経費として支出した総額を控除して残余がある場合,当該残余の額に相当する額の政務調査費の返還をしなければならない。』と定めている。そして本件条例5条を受けた本件規則(同3頁16行目参照)において定められた本件使途基準は,使用が許される支出項目として8項目を挙げ,それぞれについて内容を説明,例示しているところである。」
「イ 政務調査費が地方議会の活性化を図るために,地方公共団体の公金から交付されている以上,これを用いて会派が行う調査活動は、市政と無関係であってはならず,少なくとも,市政との関連性が必要であり,この関連性を欠く調査活動は、本件使途基準に反する違法なものというべきである。
もちろん,具体的な政務調査活動や政務調査費が本件使途基準を満たすかどうかの判定の難しい場合もあろうが,その点は,活動・支出の目的等に照らして,事実認定の原則に従って決すべきは当然である。そのようにしても不明な費用がある場合については,いわゆる立証責任の分配の原則(訴訟前ではそれに準じる。)に従って判断するのが相当であるが,本件条例8条からすると,会派は,交付を受けた政務調査費の総額から,必要な経費として支出した残額がある場合,返還しなければならないと定められている以上,政務調査費が公金であることに照らすと,必要な経費かどうか不明なものは,返還の対象となると解すべきである。」
「ウ 被控訴人は,議会の自律性,会派による政治活動の自由等から,桑名市議会の会派が行う調査研究活動として,合理性ないし必要性を欠くことが明らかであると認められない限り,政務調査費の支出が本件使途基準に反するものとはいえない旨主張し,原判決が,政務調査費の支出が一見明らかに市政とは無関係であるとか,極めて不相当あるいは著しく高額であるなど,支出の必要性は合理性を欠くことが明らかであると認められる場合に限り,本件使途基準違反の違法の問題が生じ,そうでない限りは,会派ないしはその所属議員が当該支出について政治的責任を負うことはともかく,違法の問題は生じない旨判示しているが,上記イに反する趣旨を含むものであれば,その限度では採用することができないというべきである。」
(2) その他の判決
「会議費」として計上され,備考欄に「食糧費等」と記載された支出に関し,会派が文書提出命令に応じず,その支出の具体的な内容が明らかにならなかった事案について,上記「会議費」に計上された全額を違法支出とした名古屋高裁金沢支部平成20年2月4日判決(甲9の10),「議員が政務調査活動に必要な費用として支出したことにつき,それを裏付ける資料がない場合には,基本的にこれを正当な政務調査費の支出ということはできないし,当該支出に係る領収書等が提出されたとしても,その領収書の作成者の住所を欠いていて第三者による事後的検証が困難な場合や領収書の記載からは政務調査との関連性が明らかではないにもかかわらず,それを補足する説明が為されないような場合には,当該議員は,当該支出が使途基準に合致しない違法な支出とされることを甘受せざるを得ない」と判示する仙台高裁平成19年12月20日判決(甲9の2)などは,上記名古屋高裁平成21年2月26日判決と同列の考え方に立つものと思われる。
 (3) 奈良県議会の政務調査費についても同様
本件条例においても,名古屋高裁平成21年2月26日判決で摘示された「桑名市議会政務調査費の交付に関する条例」8条と同様,交付された政務調査費を使途基準に従って使用した額を総額から控除した場合に残余があれば,会派及び議員はこれを返還しなければならない(条例12条)とされている。また,奈良県議会についても政務調査費が「公金」から支出されている点においても桑名市議会と何ら変わりがない。
したがって,必要な経費かどうか不明なものは返還の対象となると解すべきであるという,政務調査費の支出の適法性に関する上記判決の判断基準は,奈良県議会の政務調査費についても妥当すべきである。
2 証拠書類公開義務の有無と支出の違法性は関係ない。
ところで,被告は,原告らの主張を「結局のところ『証拠書類の公開を義務付けていない改正前条例及び改正前規程は違法である。』と捉え,政務調査費に関する制度自体の違法を主張するものである」とする。
しかし,政務調査費の支出の違法性は,政務調査費の目的及びそこから導かれる使途基準に適合するか否かによって判断されるのであって,政務調査費の支出に関する領収書等の証拠書類の公開が義務づけられているか否かは関係がない。
そして,違法か否かの判断基準については,①情報公開を促進し,政務調査費の使途の透明性を確保しようとした地方自治法100条13項及び14項の趣旨,②政務調査費は公金から支出されており,その支出内容はできる限り明らかにされる必要があること,③本件条例では政務調査費の使途基準に従って使用することが求められ(条例9条),政務調査費を使途基準に従って使用した額を総額から控除した場合に残余があれば,会派及び議員はこれを返還しなければならない(条例12条)とされていること,④自ら政務調査費を使用し,その支出に関する資料を所持する会派や議員らがもっとも容易にその内容を明らかにできる立場にあり,訴訟への補助参加も可能かつ容易であること,等の事情に鑑みれば,上記名古屋高裁判決の示したとおり,必要な経費かどうか不明なものは返還の対象となるべきである。
そして,そのような判断基準に基づいて違法性を判断した場合,証拠書類の公開義務がある場合であろうとない場合であろうと,結局のところ当該支出の具体的な内容によってその適法違法が決まってくるのであって,証拠書類の公害義務の有無と違法性の有無は関係がない。
 3 文書提出命令の必要性
(1) 支出の違法性に関する原告の主張の趣旨
少なくとも,現在のところ,本件各支出が政務調査費の目的や使途基準に適した形でなされたものかどうかを裏付ける何らの証拠もなく,政務調査費の目的及び使途基準に照らして必要な経費かどうかが明らかな状況にない。そのような状況下においては,原告らとしてはこれらの支出を適法なものと見ることはできないと考える。それ故,支出の全てが違法であると主張しているのである。
 (2) 文書提出命令の必要性
しかし,立証責任を全面的に被告が負うものではないから,原告らとしても違法性に関してさらに一層明確な根拠を示す必要があり,そのための立証活動の一環として文書送付嘱託及び文書提出命令の申立をしたものである。
政務調査費の支出の違法性が問題になった住民訴訟においても,結局のところ,裁判所は,各支出の具体的な内容を吟味検討して各支出が政務調査費の目的及び使途基準に照らして必要な経費か否かを判断している。このことは甲9の1~18の各裁判例を見ても明らかである。
そして,本件のように,領収書や会計帳簿が,条例上公開の対象となっていない場合であっても,上記の違法性の判断にあたって,各支出の具体的な内容の吟味検討のために領収書や会計帳簿などの証拠書類は必要である。
 (3) 文書提出命令を認めた裁判例
したがって,裁判所は,その必要性を認め,原告の住民からなされる文書提出命令を受け,その命令を出している。
現時点で,裁判所が文書提出命令を発した事例は,原告らが把握しているものに限っても下記ア~エのとおりである。このうち,ウの決定は7会派の政務調査費の支出全てを対象とした事案であり,エは名古屋市議会の自由民主党名古屋市会議員団の所属議員に交付した1億3500万円を不当利得として主張している事案である。

ア 青森地裁平成18年2月23日決定(平成18年(モ)第10014号,基本事件・平成17年(行ウ)第4号,甲9の3参照。)は、弘前市議会の一議員に対してその政務調査の支出に係る平成15年度(4月分を除く)の会計帳簿及び領収書の提出を命じている。
イ 名古屋高裁金沢支部平成18年12月15日決定(平成18年(行タ)第1号,基本事件・平成18年(行コ)第8号,甲9の11参照。)は,金沢市議会の会派である自民党金沢・市民会議,かなざわ議員会の平成15年度政務調査費に係る会計帳簿のうち「会議費」項目に該当する支出が記載されている部分及び同支出に関する領収書等の提出を命じている。
ウ 大分地裁平成20年8月7日決定(平成20年(行ク)第1~第7号)は,大分県議会の7会派に対し,平成17年度に支出した政務調査費すべての証拠書類(請求書・領収書等)の提出を命じている。
エ 名古屋地裁平成21年1月13日決定(平成20年(行ク)23号,基本事件・名古屋地方裁判所平成18年(行ウ)第80号)は,名古屋市議会の会派である自由民主党名古屋市会議員団に対し,平成16年度に支出した政務調査費に関する「政務調査費報告書」と同書面添付の領収書の提出を命じている。
 (4) 結論
以上,いずれも領収書や会計帳簿の開示義務が認められていない支出が問題になった,上記(3)ア~エの事例と本件とを別異に解すべき合理的な理由はなく,本件においても文書提出命令の必要性がある。

第2 立証事項の特定について
 被告の上記意見書の要点の二つ目は,立証事項が特定されていないという点にある。これについては,以下のとおり反論する。
1 被告は,上記意見書において,原告らが立証事項として記載した「政務調査費の支出が使途基準に適合しない違法な支出であること」というのは,評価であって事実ではないと述べている。これについては,立証事項を「政務調査費を政務調査以外の用途に使用したこと」と解釈すればいいだけのことであり,本質的な問題ではない。
2 本質的な問題は,本件文書提出命令申立が「模索的証明」として不適法となるか否かである。
理念的な民事訴訟(そこでは,対等な当事者が想定されている)において,一方の当事者が何ら証拠収集の努力をすることなく,安易に文書提出命令申立を濫用するようなことがあれば,「模索的証明」として,申立が却下されることはあり得る。しかしながら,現実には,医療過誤訴訟や公害訴訟などのように証拠が偏在するケースが少なからず存在する。
「模索的証明」として不適法となるか否か(立証事項をどの程度特定すべきか)を考える場合,証拠の偏在の程度や他の方法での立証可能性などを判断材料に加える必要がある。
本件の場合,原告らは,監査請求を行ない(訴訟提起前),さらに,文書送付嘱託申立(訴訟提起後)を行なっており,原告らのできる最大限の努力をしている。
以上の観点からすると,本件では,「政務調査費を政務調査以外の用途に使用した」との記載で立証事項の特定は十分と考えるべきである。さらに,進んで政務調査費の具体的支出態様まで原告らが指摘することは不可能であるし,また,その必要もない。
なお,「支出の実態と本件収支報告書の記載とが異なっていること」や「政務調査活動以外に支出していること」などが立証事項の特定として十分か否かが争われた,上記第1,3(3)エの名古屋地裁平成21年1月13日決定において,名古屋地方裁判所民事第9部は,「…,政務調査費の支出の適正性を裏付ける資料は相手方が保有するものに限られ,申立人ら自身はこれらを立証する手段を保有していないことなどに照らせば,本件申立てが模索的証明のためになされたものであると直ちにいうことはできず,本件申立てが『証明すべき事実』の特定が不十分で不適法なものであると認めることはできない。」として,立証事項の特定を認めている。
3 小括
 以上よりすれば,本件文書提出命令申立における立証事項の特定は十分である。

第3 対象文書が自己利用文書であるか否かについて
被告の上記意見書の要点の三つ目は,対象文書が民事訴訟法220条4号ニにいう「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」(自己利用文書)にあたるという。また,被告は,これらの文書が開示されれば執行機関や他の議員、会派からの政務調査に対する干渉を招くおそれがあるという。これについては,以下のとおり反論する。
1 旧条例11条は,議長に政務調査費についての調査権限を認め,旧規程7条は,会派の政務調査費経理責任者及び議員に対し,政務調査費についての会計帳簿及び証拠書類等の保管義務を課している。
2 議長が旧条例11条の調査権限を行使するためには,旧規程7条の会計帳簿及び証拠書類を吟味するほかなく,議長が会派の政務調査費経理責任者や議員に対し,会計帳簿や証拠書類の提出を命じたならば,経理責任者や議員は,これを提出せざるを得ないはずである。したがって,本件対象文書は,少なくとも議長に開示されることが予定されているのである。
3 さらに,地方自治法221条2項によれば,地方公共団体の長は,予算の執行の適正を期するため,補助金,交付金等の交付を受けたものに対して,その情況を調査し,又は報告を徴する権限を有するのであるから,地方公共団体の長である奈良県知事は,この権限に基づき,政務調査費の支出が適正であるか否かを調査することができるはずである。知事がこの調査をするためには,やはり,本件対象文書を吟味する必要があり,経理責任者や議員が会計帳簿や証拠書類の提出を知事から求められた場合,これらを提出せざるを得ないはずである。したがって,本件対象文書は,知事に対しても開示が予定されている文書といってよい。
4 執行機関による政務調査の干渉という懸念については,行政の中立性にかんがみても,領収書等の書類が開示されれば,開示されない場合と比べて,会派及び議員の調査研究が執行機関の干渉が強まるとうことは考えられない。
上記書類が開示された場合には「他の会派からの干渉」によって会派や議員の調査研究が阻害されるとの懸念についても,会派や議員は他の会派や議員の政務調査費の支出を是正すべき権限を有していないこと,上記書類が開示されることによって,会派や議員が相互に他の会派や議員の政務調査について意見や批判を述べ合うことで支出が適正化が期待できる面も否定できない。以上のように考えると,一概に干渉による調査研究に対する阻害のおそれがあるとはいえない。
上記第1,3(3)エの名古屋地方裁判所決定は,「相手方は,本件各文書が外部に開示された場合には,議員の政務調査活動が執行機関,他の会派等の干渉によって阻害されるおそれがある旨主張するが,一件記録に照らしても,そのようなおそれがあるということはできない。」という。
5 以上よりすると,「…,対象文書が,専ら内部の者の利用に供する目的で作成され,外部の者に開示することが予定されていない文書にあたることは明らかである。」(被告の上記意見書7頁)との主張や「…,政務調査費支出にかかる証拠書類が開示されると,…,会派及び議員の調査研究が執行機関や他の会派の干渉によって阻害される虞があるからである。」(同)との主張は,成り立ち得ないことが明らかである。
そもそも,「会派及び議員の調査研究が『執行機関』や他の会派の干渉によって阻害される虞がある」との主張が会派や議員からなされるならいざ知らず,執行機関の最高責任者である被告からなされているのは如何なものであろうか。
6 なお,奈良県政務調査費の交付に関する条例及び規程は,平成20年3月に改正され,収支報告書に領収書等の添付が義務づけられ,かつ,一般市民がそれらを閲覧・謄写することが可能となった(新条例13条,新規程9条)。奈良県に限らず,他の多くの地方公共団体においても,続々と領収書等の開示を義務づける方向で条例等の改正がなされている。
 被告は,奈良地方裁判所の古い判決を証拠として提出し(乙11),議員の活動の中には公開になじまないものがあること,そのような活動に一定の公金を支出することは許されることなどを主張する。しかし,この判決は,地方自治法の改正によって条例による政務調査費の支給制度が設けられる以前に、奈良県の要綱によって支給された,平成10年度の政務調査研究費に対するものである。
これに対して,少なくとも,現在,特に政務調査費の支出の透明化,情報公開の促進を趣旨として地方自治法が平成12年に改正され,条例による政務調査費支給の制度が設けられてからは,使途が明らかでない公金支出は認められないというのが基本的な考え方である。原告が,既に2008年8月29日付準備書面で指摘した裁判例(甲9の1~16)及び前記名古屋高裁平成21年2月26日判決も同様の考えに立つと行って差し支えない。
平成20年3月の奈良県条例等改正の流れも,上記地方自治法の趣旨に沿うものであり,被告が主張するような古い考え方を否定するものである。
被告は,平成20年3月改正前の条例及び規程の下では領収書等の添付義務がなかったので,「調査研究活動に関わる経費であれば,秘密にしておきたい調査活動や協力者のプライバシー保護に配慮が必要なものであっても,特段の注意をすることなく政務調査費を充当することが可能であった。」(被告の上記意見書8頁)と述べるが,このことは,反面で「会派や議員は,特段の注意をすることなく政務調査費を私的に流用することが可能であった。」とも言えるのである。因みに,大分地裁平成20年8月7日決定(平成20年(行ク)第1~第7号)の後,この住民訴訟の原告は,上記決定によって開示され領収書に基づいて「大半が支出を裏付ける領収書などの資料がなく,日当の意味合いで支給されている」こと,「支援者が県議会の傍聴に訪れた際の弁当代」も政務調査費から支出されていたこと,などを主張している模様であり(添付書類5,6),開示の対象となっていなかった時代の政務調査費の使い方が相当杜撰であった可能性を示唆している。
なお,上記第1,3(3)ア~エで文書提出命令が認められた結果,秘密にしておきたい調査活動や協力者のプライバシーが侵害されて問題となっているというような事情はない。
7 被告は,本件対象文書が開示されることによる弊害を縷々述べるが,原告らは,以上のような理由から被告が述べるような弊害が生じるとは考えていない。
万一,何らかの弊害が生じるとしても,審尋手続(民事訴訟法223条2項)やインカメラテスト(同6項)など,弊害を未然に防止する制度が存するのであり,審尋手続やインカメラテストを経た上で文書提出命令を発令するか否かを検討すればいいだけのことである。
会派や議員が未だ意見を述べていない段階で,執行機関の最高責任者である奈良県知事が「『執行機関』の干渉によって阻害される虞がある」との主張をしているのは,本末転倒と言わざるを得ない。
8 小括
以上より,本件対象文書は,自己利用文書にあたらないことは明らかである。また,本件対象文書の開示によって何らかの弊害が生じるとしても,その弊害を未然に防止することは可能なのであり,被告の意見には十分な説得力がない。

第4 結論
以上述べたごとく,被告の上記意見書には十分な理由がないのであり,民事訴訟法223条2項の審尋手続を進めて頂きたい。

            添付書類

1 青森地裁平成18年2月23日決定(平成18年(モ)第10014号,基本事件・平成17年(行ウ)第4号,甲9の3参照。)
2 名古屋高裁金沢支部平成18年12月15日決定(平成18年(行タ)第1号,基本事件・平成18年(行コ)第8号,甲9の11参照。)
3 大分地裁平成20年8月7日決定(平成20年(行ク)第1~第7号)
4 名古屋地裁平成21年1月13日決定(平成20年(行ク)23号,基本事件・名古屋地方裁判所平成18年(行ウ)第80号)
5 平成20年9月11日付大分合同新聞HPの記事
6 平成20年11月21日付大分合同新聞HPの記事
                                   以上